虫の目、鳥の目、魚の目 – 風評被害はなぜ起きるのか
- Hiromi
- 2021年4月15日
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先日、福島原発事故に伴って発生し、その後除染処理された「高濃度の放射性物質を含む水」の呼称が大変物議を醸しました。ある海外向けメディアがそれを「汚染水 (radioactive water)」と報じたところ、海外から非難が殺到しました。実際のところ、今回海に放出することが決まった水は、除染処理によって除去できないトリチウムという放射性物質を、国の基準の 40 分の 1、WHO の定める飲料水の基準の 7 分の 1 程度まで希釈し、実際に放出を開始するのは 2 年後ということです。さらに、トリチウムの半減期は約 12 年と短く、除染処理された後で海に放出される水は、ほとんど真水と変わらなくなります。以上は、私のような素人が入手できるミクロな視点での情報、つまり「虫の目」で見た情報です。
しかし、正しい判断を下すには、この「虫の目」で見た情報だけでは十分ではありません。原発は世界中で使用されているということは、当然どこの国も、処理後のトリチウム入りの水をどこかに「捨てて」いるはずです。そこでマクロの視点である「鳥の目」で調べてみると、フランスのある原発施設は、なんと年間約 1 京 3778 兆ベクレルのトリチウムを放出しているそうです。事故前の福島原発から放出されていたトリチウムは約 370 兆ベクレル、今回放出が決まった量は約 860 兆ベクレルで、海外には福島の比ではない原発がまだまだたくさん存在します。参考として、各国の代表的な原発からのトリチウム年間排出量の図を添付しておきます (※1)。現状から考えても、福島だけが非難の対象になるべきではないことがわかります。つまり、私たちは回り回ってすでにもう何十年もトリチウム入りの水を飲んできたということです。こうした全体像は「鳥の目」で見ないとわかりません。
最後の「魚の目」は、海を自由自在に行き交う魚のようなダイナミックな視点です。最終的な意思決定を下すには、このように問題を多角的に分析することが非常に重要になります。今回の処理水の放出に関しては、国内の事情、海外との関係、漁業への影響、福島の住民の感情など、さまざまな側面を考慮し、全体のコンセンサスを得るのが極めて難しい中でベストな解決策を模索していく必要があります。風評被害を煽る記事、そしてそれを信じている人の言葉をよく聞くと、こうした時間のかかるプロセスをすっ飛ばし、中身がとても薄っぺらいと感じることが往々にしてあります。東日本大震災から 10 年が経った今、政府が下した決断を、私は素直に評価したいと思います。
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