『からだに貞(き)く』 - 人間とは何かを探究する営みが体操である
- Hiromi
- 2020年12月16日
- 読了時間: 2分
「貞く」という字を「きく」とも読めることを知ったのは、この野口三千三氏の著書が初めてでした。野口氏によると、「貞」という文字は中国の古代殷の甲骨文字に由来し、「卜」は「占」、「貝」は「鼎 (かなえ)」を表しています。つまり、これは「神の声を受け入れる」行為を意味しているのです。野口氏はこの字を使うことで、からだは神であり、からだの声を聴くことは、すなわち神の声を聴くことにほかならないと言わんとしたようです。
野口氏の著書を読んだとき、最初は他の体操関連本とはまったく様子が違うことにとまどいを覚えました。しかし、「からだ」とは何かをとことん突き詰めて考えようとするその姿勢に、私自身のポーズへのこだわりがすーっと溶けていくような思いにとらわれました。一般の「体操」が初めに形ありきだとすれば、野口体操はまず「神の声」があり、「からだ」がそれを形として表現するのであって、形はあくまでも後付けにすぎないのです。
野口氏は生まれながらにして運動神経抜群で、優秀な体操教師として長年勤めておられましたが、戦後は腰痛症と胆石症に苦しめられたそうです。体操教師としてはもはや致命的ですが、野口体操は、そうした爆弾をかかえながらいかにからだと向き合っていくかという、葛藤と探求の末に生まれました。野口氏もまた、「痛み」から大きな気づきを得た一人でした。からだという神の声を聴きながら溢れ出てくる言葉は、いずれも人間の本質をついています。その一つひとつに耳を傾けることで、日常生活だけでなく、生き方を見直すきっかけになるのではないかと思います。
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